DODDODO
那須高原で車から外を眺めているとよく目にする、謎の大きな白い塊の群れ。それらはサイレージと呼ばれる、飼料を特殊なラップで巻いたもので、ちょうどこの時期に作られ、冬まで中身を発酵させて牛に与えるそう。ごろごろと畑に転がっていたり、綺麗に並んでいたり。まぶしいくらい真っ白だったり、薄暗い木陰で朽ちていたり。畑によって異なるそれらの表情はどこか生き物のようで愛らしい。強い風が吹いても力一杯押してもびくともせず、その場にドンと構えている。
「どっどど どどうど どどうど どどう」
どこか聞き覚えがあったが、久々にこれらの文字を目にしたとき、動物の群れが大移動するように、そのヘビーな塊たちがゆっくりと動き回る、そんな光景を思い浮かべた。
「どっどど どどうど どどうど どどう」
これは「風の又三郎」の冒頭、宮沢賢治が風の音を表現したオノマトペ。彼は場面ががらりと一転するような異変を起こす役割としてよく「風」を登場させる。風の神の子と言われる「風の又三郎」が行くところには必ず風が吹き、その場の空気を変える。
そんなふうに私も、那須を長閑にドライブする景色の中に異変を起こしたい。穏やかで小粋なこの町に何かしらの違和感を残したかった。私にとっては異質な白い塊たちも地元の人には見慣れたもの。それらにペイントさせてもらえないか酪農家さんにお願いをした。
「風の又三郎」を読んだのは、滞在中に訪れた藤城清治美術館でそれを題材とした影絵を見たのがきっかけ。そのストーリーは台風が来るとされる「二百十日」の9月1日に又三郎が村へやって来るところから始まり、9月12日にまたその地を離れていってしまうというところで終わっている。くしくも私の那須の滞在期間がそれとほとんどかぶっていたことを単なる偶然だと思いたくなかった。
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